疾患別最新医学ニュース(うつ病)5

心の病にミトコンドリアのエネルギー代謝障害が関与

うつ症状と躁症状を繰り返す疾患(躁うつ病)を双極性障害といいます。躁うつ病では、ミトコンドリアのエネルギー代謝、特にエネルギーの通貨であるアデノシン三リン酸(ATP)を大量に産生する過程(酸化的リン酸化)に障害があると報告されています(Archives of General Psychiatry(2004; 61: 300-308))。

躁うつ病患者さんの脳の海馬という記憶の中継所や前頭葉皮質で、ミトコンドリアタンパク質を作る遺伝子の発現が低下していることが確認されています。

ミトコンドリアタンパク質を作る遺伝子の発現が低下すると、ミトコンドリア内で働くタンパク質が産生されなくなります。それはミトコンドリア内でのエネルギー産生や活性酸素の抑制を損ないます。

ミトコンドリア調節不全は代謝を解糖系から嫌気的エネルギー生成側にシフトさせ、乳酸レベルを上昇、pHの低下(酸性化)、活性酸素の増加、グルタミン酸 の興奮毒性、そして最終的にこれらの複合で脳の細胞死(アポトーシス)に至ります。

うつ、パニック障害、不眠症、自律神経障害、不安障害といった脳の機能不全は、脳の細胞内ミトコンドリアの機能変調で起こりますが、躁うつ病ではすでに実験的に確かめられています。

また産生されたタンパク質で異常なものはタグのようなものがつけられ、ゴミとして処理されます(ユビキチン・プロテアソーム系)が、この機能も低下していると報告されています。その結果、ゴミが溜まったり、新しいタンパク質が作れないという問題もおこしています。

現代の最新の研究では、これらの事実が細切れに行われていますが、確実に科学的根拠が固められつつあります。うつ、パニック障害、不眠症、自律神経障害、不安障害といったこころの病は「気持ちの問題」だけではなく、きちんとした分子機構が存在するはずなのです。

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