抑うつ症状がある人の2型糖尿病リスクは高く、反対に治療中の2型糖尿病 患者は抑うつ症状の強まりを経験しやすいことがJohns Hopkins大学から論文報告されています(Examining a Bidirectional Association Between Depressive Symptoms and Diabetes :JAMA誌2008年6月18日号)。
対象にしたのは、無症候性の心血管疾患の有病率や危険因子などを人種間(白人、 黒人、ヒスパニック、中国人)で比較した多施設コホート研究(Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis研究)の被験者。米国在住の45~84歳の男女6814人を2000~2002年に登録し、2004~2005年まで追跡したものです。
この研究では、うつ症状については、疫学的うつ病評価尺度(CES-D)のスコアが16以上と/または抗うつ薬使用を抑うつ症状ありと定義しています(CES-Dは20項目からなる質問票で、一般集団のうつ症状を評価する目的に使用されている。得点可能範囲は0~60ポイント で、16ポイント以上が抑うつ傾向となる)。
今回のコホート研究については以下の2通りの分析を実施されています。
分析1:ベースラインで2型糖尿病ではなかった5201人の患者 を、抑うつ症状ありグループ(911人)となしグループ(4290人)に分け、Cox比例ハザード回帰モデルを用いて3.2年間の2型糖尿病罹患のハザー ド比を求めています。調整に加える交絡因子候補を段階的に増やすモデル1-6を作製し、抑うつ症状の存在が危険因子として独立しているかどうか評価。
分析2:ベースラインで抑うつ症状がなかった4847人を空腹時血糖値に基づいて分類。空腹時血糖正常(100mg/dL、2868人)、空腹時血糖異常 (100~125mg/dL、1357人)、未治療の2型糖尿病(126mg/dL以上、203人)、治療中の2型糖尿病(417人)の4群に分け、 3.1年間のうつ症状の累積罹患率を求めて、抑うつ症状の強まり発生のオッズ比をロジスティック回帰分析により推測しています。交絡因子候補を段階的に加えて多変量モデルを作製しています。
分析1では、抑うつ症状なしグループ中215人が 2型糖尿病に罹患。抑うつ症状ありグループでは60人だった。1000人-年当たりの2型糖尿病罹患率は、抑うつ症状あり群で22.0、なし群で 16.6。ハザード比は1.37(95%信頼区間1.02-1.19)でした。つまり、抑うつ症状があれば、2型糖尿病に罹患する危険はそうでない人より1.37倍高まるということです。
2型糖尿病の罹患リスクは、人口統計学的要因とBMI で調整したモデルでは、CES-Dスコア5ユニット上昇当たり1.10倍(95%信頼区間1.02-1.19)。この関係は、調整にメタボリックな 要因、炎症関連要因、社会経済的要因を加えても維持された。ライフスタイル要因を加えた場合にのみ1.08(0.99-1.19)と有意性が失われたが、 完全調整モデルでは1.10(1.02-1.20)となり、有意なリスク上昇が示されました。
この結果は、抑うつ症状がある患者の糖尿病リスク上昇の一部については、ライフスタイル要因により説明が可能であることを示唆しています。
分析2では、抑うつ症状の強まりが認められた患者の数と1000人 -年当たりの抑うつ症状の強まり発生率は、空腹時血糖正常で336人と36.8、空腹時血糖異常では112人と27.9、未治療の2型糖尿病患者で15 人、31.2、治療中の患者では60人、61.9でした。
空腹時血糖正常群と比較すると、人口統計学的要因で調整した抑うつ症状の強まり発生のオッズ比は、空腹時血糖異常が0.79(0.63-0.99)、未治療の2型糖尿病が0.75(0.44-1.27)、治療中の糖尿病が1.54 (1.13-2.09)となった。これらの関係はすべて、BMI、社会経済的要因、ライフスタイル要因、併存疾患で調整後も実質的に変化しなかった。完全 調整モデルでは、糖尿病治療中患者の抑うつ症状の強まり発生のオッズ比は1.52(1.09-2.12)でした。
うつ症状が2型糖尿病の発生に関連していることを示す研究結果はいままでも複数あります。糖尿病患者で臨床的なうつ、抑うつ症状の強まりが見られる頻度は高いことが報告されています。
また、うつ症状があると、身体活動の低下や過食が起こりやすい上、神経内分泌系が活性化されたり、炎症反応が生じたりするために、インスリン抵抗性が誘発される可能性があります。
そもそもうつは病態生理からいうと、最終的には脳の慢性炎症によるミトコンドリアの機能低下という共通項に辿ることができます。
糖尿病も慢性炎症疾患であることを考えると、いずれも生活習慣の改善によってかなりの改善・治癒が認められることが今回の論文からも読み取ることができます。