ミトコンドリアは細胞内でのエネルギー産生の場ですが、過剰に分裂するとシナプス障害が起こり、最終的には神経細胞死がもたらされます。シナプスは学習・記憶に不可欠で、シナプスの機能障害は、アルツハイマー病(AD)患者さんの認知症の原因となります。
今回、フリーラジカルの一酸化窒素(NO)がミトコンドリアの分裂または断片化を媒介する酵素(ダイナミン様蛋白質(Drp)1)を攻撃すると、Drp1がS-ニトロシル化し、間接的にアルツハイマー病(AD)関連の神経変性をもたらすことが示されたと発表されました(Science(2009; 324: 102-105)。
βアミロイド蛋白質(Aβ多量体)がNOの産生を誘導し、産生されたNOがDrp1と反応してミトコンドリアの過剰分裂を引き起こすことにより神経細胞障害がもたらされるという機序が提唱されました。ミトコンドリアの機能異常がアルツハイマー病の原因という証拠がまた補強されました。
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→S-ニトロシル化を受けたDrp1(SNO-Drp1)がミトコンドリアの分裂を促し、シナプスに障害をもたらすか否かを検証した。
その結果、過剰なNOがDrp1のS-ニトロシル化を引き起こすとともに、培養神経細胞またはニューロン内において過剰なミトコンドリア分裂を誘導すること、さらにこのSNO-Drp1の誘導にはAβ多量体が関与していることがわかった。Aβ多量体は、ADへの関与が既に指摘されている。特に重要 なのは、AD患者の脳内ではSNO-Drp1レベルの上昇が認められたが、パーキンソン病や神経変性疾患ではない対照群では認められなかった点である。
分子モデルからは、Drp1のS-ニトロシル化がAβの二量体化と酵素の活性化を引き起こし、それによってミトコンドリアの分裂が誘導されることが示唆された。同所長らは、この仮説を受けて、Drp1発現を抑制するRNA干渉またはDrp1の活性を妨げる変異により、ミトコンドリアの過剰分裂が阻害され、神経細胞が防護されることを確認した。さらに、変異Drp1はニトロシル基を欠くためミトコンドリアの分裂を誘導せず、神経細胞の障害も予防することを実証した。