肥満や糖尿病などの慢性炎症疾患がアルツハイマー病(AD)などの認知症と共通の危険因子を有しており、その発症にも影響を与えることを示す複数の研究結果が、Archives of Neurology の代謝障害に関係した神経疾患の特集号に掲載されました。
カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)とサンフランシスコ復員軍人局医療センター(SFVAMC)のKristine Yaffe教授らは、登録時に認知障害のない高齢女性4,895例(平均年齢66.2歳)を4年間追跡した結果、メタボリックシンドロームの構成因子(腹部肥満、高血圧、HDLコレステロール低値)が重積する群で認知障害発症リスクが高いことが示唆されたと発表しました(Archives of Neurology 2009; 66: 324-328)に。
4年間に認知障害を発症したのは、メタボリックシンドローム女性497例(10.2%)中36例(7.2%)、非メタボリックシンドローム女性 4,398例中181例(4.1%)であった。メタボリックシンドロームの構成因子を1つ保有するごとに認知障害リスクは23%上昇しました。
UCSFのAlka M. Kanaya助教授らが実施したHealth, Aging and Body Composition(ABC) Studyでは、高齢者3,054例を7年間追跡した結果、男性の肥満は認知機能の低下と相関するが、女性では認められないことが示唆されています(Archives of Neurology 2009; 66: 329-335)。
ワシントン大学公衆衛生学部(ワシントン州シアトル)のAnnette L. Fitzpatrick准教授らは、中年の肥満は認知症リスク増加と関連することが示唆されましたが、65歳を過ぎると逆にBMIの上昇に伴い認知症リスクは 低下し、低体重のほうが認知症リスクは高いと発表しています(Archives of Neurology 2009; 66: 336-342)。同准教授らは、認知症のない成人2,798例(平均年齢74.7歳)を登録し、50歳時(中年期)の体重を報告させ、65歳以上の時点 (高齢期)の身長・体重を測定しました。
平均5.4年の追跡期間中、480例が認知症を発症し、うち245例がアルツハイマー病、213例が血管性認知症であった。中年期では、BMIが30を超える 肥満群で正常体重群と比べて認知症発症リスクが増大したが、高齢期では逆に低体重群(BMI 20未満)で認知症リスクが増大し、肥満群と認知症との関連性は消失した。このことから、高齢期には肥満が保護的に働くことが示唆されました。
コロンビア大学医療センター(ニューヨーク)のElizabeth P. Helzner博士らは、アルツハイマー病患者156例(アルツハイマー病診断時の平均年齢83歳)を対象とした研究により、総コレステロール(TC)高値、LDLコレステロール (LDL-C)高値、糖尿病既往があると、アルツハイマー病発症後の認知機能低下がより速く進むことがわかったと発表しました(Archives of Neurology 2009; 66: 343-348)。
平均3.5年間追跡したところ、アルツハイマー病診断前にLDL-C高値の群とTC高値の群では、これらのコレステロール値が正常な群と比べて、認知検査スコアの低下が速かった。また、糖尿病既往群と非既往群の比較でも同様の結果が得られました。
以上の結果を総合すると肥満、糖尿病といった慢性炎症疾患と認知症、アルツハイマー病との関連は認められるようです。ただ、アルツハイマー病になってしまうと食事摂取が低下しますので、誰かが介護しない限り肥満はなくなっていくでしょう。厳密な前向きコホート研究を繰り返ししない限りは答えはでませんが、脳の体の一器官である以上、全身の慢性炎症の影響は逃れられないでしょう。