(マキノ出版『安心』7月号(2011)掲載より転載)
うつ病は、遺伝や環境因子によって引き起される慢性炎症疾患の症状の一つである。こう言うと、きっと驚く人も多いでしょう。 慢性炎症疾患というと、関節リウマチのような難病を思い浮かべるかもしれませんが、実はあらゆる病気の原因と言ってもいいものです。
私はもともと脳神経外科を専門としていた医師ですが、病気の原因について究明していくなかで、こうした確信を持つようになりました。
例えば、従来の医療では「Aという原因でBという病気が起こる」といったように、病気の原因を直線的に捉えます。しかし、実際にはもっと多くの要因が複雑にからみ合っているものです。
具体的には、遺伝と環境因子の複合作用によって、体のさまざまな場所に慢性炎症が生じる。その中でも、脳の中心部にある視床下部や下垂体などの器官や前頭前野に慢性炎症が生じることで発症するのが、うつ病なのです。
どの病気も慢性炎症によって生じるという点は同じですから、うつ病のための特別な治療が必要になるわけではありません。ガンも難病もうつ病も、基本的に同じ治療法によって治癒に導くことができます。
では、どうやってうつ病を治癒すればいいのでしょうか?
慢性炎症の原因である遺伝と環境因子のうち、変えられるのは環境因子の方です。
環境因子としては、ダイオキシンや水銀のような有害物質や、いま問題になっている低濃度の放射性物質による汚染、病原菌やウイルス、電磁波、タバコの煙などのほか、精神的ストレス、食事、生活習慣も関係してきます。
こうした因子がカクテルのように混ざり合って、その人の体に影響している(カクテル効果)と考えてください。個人によって反応が起こるレベルが異なるので、悪い因子に囲まれていても平気な人もいれば、すぐに症状が表れてしまう人もいます。
いずれにせよ、こうしたカクテル効果によって病気が引き起こされる以上、その原因を一つ一つ取り除いていく必要があることはわかるでしょう。
なかでも大事なのは、すぐに実行できる生活習慣の改善です。よくない生活習慣をできるところから改善していくだけでも、環境因子のリスクを減らすことができます。うつ病の治療においても、大きな効力を発揮することになるのです。
では、このうつ病を治癒するための代表的な9つの改善ポイントについて解説しましょう。
私のクリニックを訪れるうつ病の患者さんのなかには、「薬物治療を長年受けているのにいっこうに改善されない」「むしろ症状が悪化してしまった」という人が数多くいます。
例えば、兄の暴力によるストレスで10年以上にわたり重度のうつに苦しんできたAさん(38歳・男性)が、自殺未遂をはかって私のクリニックに運ばれてきました。
肺炎を併発していたこともあり、すぐに入院の処置をとりましたが、この段階ですでに薬漬けの状態。SSRIなど数種類の抗うつ薬、精神安定剤などを服用していました。症状を改善させるには、まずこうした薬を減らしていかなくてはなりません。
減薬の指導をしながら生活習慣の改善を実行してもらったところ、3ヵ月ほどでひどかったうつ症状がほとんど見られなくなり、表情がとても明るくなってきました。意欲も出てきて、私に仕事の相談をするほど回復できたのです。いまは退院していますが、ここで挙げた9つのポイントを守っている限り、症状がぶり返すことはないでしょう。
自殺未遂を図るような重度のうつ病が3ヵ月で改善したことに驚かれた人もいるかもしれませんが、これは決してめずらしいことではありません。
うつ病は、数ある慢性炎症のなかでは比較的軽度のものです。慢性炎症を引き起す原因をよく理解し、一つ一つ取り除いていく努力をすれば、どんな人でも自然治癒していきます。
焦らず、ゆっくりと、それまでの生活習慣を変えていくようにしてください。