ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)に代表されるω-3不飽和脂肪酸には抗炎症作用があることが知られています。今回、ω-3不飽和脂肪酸は、G蛋白質共役受容体の1つであるGPR120を介してマクロファージ誘導性の炎症反応を抑え、さらにこの炎症反応が引き起こすとされるインスリン抵抗性も改善できることが欧米一流雑誌に論文発表されました(Cell , 2010; 142: 687-698)。
ω-3不飽和脂肪酸が炎症誘導性マクロファージに作用し、その炎症誘導反応を抑制できることは以前から知られていたが、そのメカニズムについては 未解明のままでした。
炎症誘導性マクロファージと脂肪細胞内では、G蛋白質 共役受容体のGPR120が特異的に高発現していること、また長鎖脂肪酸がGPR120を介して細胞内カルシウム濃度を上昇させることが分かっています。
GPR120のアゴニストであるGW9508を陽性対照、GPR120の siRNAによるノックダウンを陰性対照として、種々のアッセイ系を用い、確かにω-3不飽和脂肪酸がGPR120を介して抗炎症作用をもたらしていることを証明しました。
予想される経路上のさまざまなシグナル分子をsiRNAで順次ノックダウンすることで、GPR120の下流にシグナルが伝わる メカニズムを絞り込み、GPR120と結合したβ-アレスチン2がさらにTAB1と結合することで、炎症誘導シグナル経路上のTAK1がTAB1と結合できなくなり、炎症反応が誘導されなくなることを明らかにしました。
脂肪細胞から分泌される飽和脂肪酸は、肝臓や脂肪組織中のマクロファージに炎症反応を誘導し、その結果これらの組織がインスリン抵抗性を呈すよう になるとされています。今回、ω-3不飽和脂肪酸によるGPR120経由の抗炎症作用を確認した後、これによってインスリン抵抗性が回復するかどうかが検討されました。
GPR120遺伝子のノックアウト(KO)マウスと野生型(WT)マウスをそれぞれ高カロリー食で飼育すると、両者とも肥満を呈し、インスリンの 抵抗性も生じました。そこへω-3不飽和脂肪酸(マウス1匹1日当たり50mg DHAか100mg EPA相当)を与えると、KOマウスではなんの効果もなかったのに対し、WTマウスではインスリン抵抗性の改善が見られました。その効果は、インスリン抵抗性 改善薬rosiglitazoneと同等かそれ以上であったといいます。
さらにWTマウスの骨髄をKOマウスのものと入れ替え、骨髄由来の細胞でのみGPR120を失ったマウスを作製して同じ実験を行ったところ、この マウスではインスリン抵抗性の改善が見られませんでした。このことからω-3脂肪酸によるインスリン抵抗性の改善作用は、脂肪細胞上の GPR120ではなく、骨髄由来のマクロファージ上のGPR120を介したものであると結論付けています
用量の問題として、体重50kgの人が本実験と同等の効果を得ようとするなら、少なくとも1日当 たり50gのDHA(秋刀魚の塩焼き25匹分に相当)を摂取する必要があるという点も指摘しています。つまり、糖尿病を魚油だけで治療するのはナンセンスであるということです。
ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)に代表されるω-3不飽和脂肪酸の抗炎症作用は今回の論文による詳細な研究でも明らかになっています。慢性炎症疾患には有効であるのは間違いありません。