ミトコンドリアは私たちの生命維持で最も基本的で大切なエネルギー産生器官です。ミトコンドリアを活性化させることができれば健康や長寿につながることは今までの研究で明らかになっている事実です。
今回、自閉症の患者さんでは、ミトコンドリアの機能が健常児に比べ低く、ミトコンドリアDNA(mtDNA)の増幅や欠失も見られることが報告されました(JAMA誌2010年12月1日号)。
健康な小児と比べ、自閉症患者さんのミトコンドリアには、ピルビン酸脱水素酵素複合体の活性低下、酵素複合体Iその他の機能低下、過酸化水素生成速度の上昇、mtDNAのコピー数増加や欠失が見られることを発見されました。
ミトコンドリアの機能不全はエネルギー産生不足を招くため、体内で特に多くのエネルギーを必要とするプロセスである神経発達などに影響が現れる可能性があります。
自閉症に見られる社会的スキル不足や認知障害はそうした影響を受けた結果である可能性が今回の論文で指摘されています。今回の論文からは、ミトコンドリアの機能低下によって自閉症が起こるかどうかは断定できませんが、少なくとも自閉症でミトコンドリアの機能低下がみられることが初めて報告されました。
自閉症になるとミトコンドリアの機能が低下するのか、ミトコンドリアの機能が低下すると自閉症のような病態になるのか、今後の研究が待たれるところです。
詳しい研究内容はコチラ
→米カリフォルニア州で03年から行われている 集団ベースのケースコントロール研究Childhood Autism Risk From Genes and Environment(CHARGE)に登録された自閉症確定例の小児364人と、患者と血縁関係がなく、年齢や性別、人種などがマッチする健常な小児 289人の中から、それぞれ10人を選んでリンパ球を採取し、ミトコンドリアの機能とmtDNAを比較した。
主要アウトカム評価指標は、酸化的リン酸化活性、mtDNAのコピー数と欠失、過酸化水素生成レベル、血漿中の乳酸とピルビン酸の値に設定された。
患者リンパ球のミトコンドリアでは、対照群に比べ、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)オキシダーゼの活性が有意に低下していた。平均は4.4(95%信頼区間2.8-6.0)と12(8-16)で、P=0.001。
ミトコンドリアの電子伝達系で役割を果たすIからVの酵素複合体のうち、複合体Iの活性が対照群より低かった患者が10人中6人おり、うち4人で複合体Vの活性も低下していた。すべての複合体の機能が正常だった患者は2人だけだった。
患者血漿中のピルビン酸の平均値は有意に上昇していた。0.23mM(0.15-0.31)と0.08mM(0.04-0.12)で、P=0.02。10 人中8人でピルビン酸値が高く、残りの2人は乳酸高値を示した。並行して、患者群ではピルビン酸脱水素酵素複合体の活性が低下していた。1.0nmol/ 分/ mg蛋白質(0.6-1.4)と2.3nmol/分/mg蛋白質(1.7-2.9)で、P=0.01。
また、患者群ではミトコン ドリアの複合体IIIによる過酸化水素産生が活発になっていた。0.34nmol/分/mg蛋白質(0.26-0.42)と0.16nmol/分/mg蛋 白質(0.12-0.20)で、P=0.02。複合体Iの過酸化水素生成速度にも有意な差が見られた。0.15nmol/分/mg蛋白質 (0.05-0.25)と0.07nmol/分/mg蛋白質(0.03-0.11)で、P=0.03。
患者全体と対照群を比較した場合には、mtDNAのコピー数に差は見られなかったが、コピー数増加が見られた5人の平均を対照群と比較すると差は有意だった(P=0.0001)。
この過剰増幅が体内のリンパ球のみに生じているのかどうかを知るために顆粒球についても分析したところ、リンパ球と同様の結果が得られた。
チトクロムb断片の欠失が2人の患者に見られた。これら2人についてND1に対するチトクロムbの比を求めたところ、対照群との差は有意だった(P=0.01)。