この20年間で心疾患と口内炎、歯肉疾患を含む口腔内の炎症との関連性について関心が高まっています。身体の炎症(口腔と歯肉を含む)が血栓の形成に重要な役割を果たすことはすでに確認されています。
今回、ロンドン大学のRichard Watt教授らの研究チームが、スコットランド健康調査(Scottish Healthy Survey)に参加した成人1万1,000例のデータを解析した結果、歯磨きを1日2回以上行う人に比べて2回未満の人では心疾患発症リスクが高まることがわかったとBMJ(2010; 340: c2451)に発表しました。
今回の研究では、喫煙や身体活動度、口腔衛生習慣などのライフスタイルに関するデータを解析しました。歯科の受診頻度(6か月ごとに少なくとも1回、1~2年ごと、めったに行かないか全く行かない)と、歯磨きの頻度(1日2回、1日1回、1日1回未満)を被験者に質問しました。
また看護師が、同意を得た被験者から心疾患の既往歴と家族歴、血圧に関する情報を収集し採血を行いました。採血の目的は、身体の炎症の程度を明らかにすることでした。インタビューで得たデータを2007年12月までのスコットランドにおける入院と死亡のデータと関連付けました。
その結果、歯科受診の頻度が6か月に1回と回答した群の62%と歯磨きの頻度が1日2回と回答した群の71%は、口腔衛生習慣がおおむね良好でした。
社会階級や肥満、喫煙歴、心疾患の家族歴などの確立された心疾患危険因子でデータを調整したところ、歯磨きの頻度が低い被験者では1日2回の被験者に比べて心疾患発症リスクが70%高い結果が得られました。口腔衛生状態が不良な被験者はC反応性蛋白(CRP)やフィブリノーゲンなどの炎症マーカーも陽性でした。
今回観察された口腔衛生習慣と心血管疾患との関連が、実際の因果関係であるのか、単なるリスクマーカーにすぎないのかを確認する必要は今後ありますが、口腔内の炎症が慢性病の原因となる傍証とはなるでしょう。