成長と発達を促進する年少期に合成されるインスリン様成長因子(IGF)-1というホルモンは寿命も調節します。IGF-1による寿命調節機 序には、他の成長因子、特に成長ホルモンとの相互作用や環境因子もかかわっています。サンアントワーヌ研究センター(パリ)のMartin Holzenberger博士率いる仏国立医学研究所(Inserm)unit 893チームは、突然変異の誘発によってマウスの脳内に存在するIGF-1受容体の数を減らす実験を行い、 IGF-1レベルが低下した マウスでは成長が遅延し、寿命が延長しました(PLoS Biology(2008; 6: e254))。
これまでの研究から、線虫や昆虫では、生まれた初期から産生されるIGFが成長、発育、代謝にとって非常に重要であることが証明されています。また、これ らの研究により、IGFの産生が低下すると、これら生物種の寿命が延長することも示されています。
アンチエイジング(老化防止)の目的で、成長ホルモンを使うことは、IGFの産生が高まるため、寿命を縮める結果になります。
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→マウスに突然変異を誘発させ、脳内のIGF受容体を正常マウスの2分の1に低下させた。これら変異マウスでは、いくつかの代謝異常と成長遅 延が見られたものの健康状態は良好であった。その後、成年期に達した変異マウスを調べると臓器(心臓、肺、肝臓、腎臓など)が正常マウスより小さく、血糖値とHDLコレステロール値は高かった。 しかし、これらの変化にかかわらず、変異マウスでは正常マウスよりも寿命が長く、変異マウスの100週(ヒトの70歳に相当)での死亡率は正常マウスの6分の1であった。このことから成長遅延が寿命に有利に働いているものと考えられた。